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「クラウドをやめて自社に戻す」は本当に増えている?2026年のオンプレミス回帰を数字で読み解く

| #クラウド #コスト #トレンド
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こんにちは、インフラエンジニアのryuです。

ここ最近、「クラウドをやめて自社サーバーに戻す」という話を見かける機会が増えたと感じていないでしょうか。

数年前は逆でした。とにかくクラウドへ、オンプレミスは時代遅れ、という空気があったはずです。それが2026年のいま、業界のニュースには回帰という言葉が並んでいます。

とはいえ、こういう話は数字がひとり歩きしがちです。本当にみんな戻しているのか。戻しているとしたら、何を、なぜ戻しているのか。そして、それは私たちインフラエンジニアの仕事にどう跳ね返ってくるのか。

今日はそこを、調査データと実際の事例から落ち着いて整理してみます。

そもそもクラウド回帰とは何を指しているのか

英語ではリパトリエーション(repatriation)と呼ばれます。もともとは本国送還という意味の言葉で、パブリッククラウドに置いたワークロードを、自社のデータセンターやプライベートクラウドへ戻すことを指します。

ここで大事なのは、クラウドをやめる話ではなく、置き場所を選び直す話だということです。

引っ越しではなく、部屋の使い分け

賃貸と持ち家でたとえると分かりやすいと思います。

引っ越したばかりの頃は、家具付きの賃貸が圧倒的に便利です。すぐ住めるし、壊れても大家さんが直してくれる。ところが、10年住むことが決まっていて、しかも部屋の広さも生活パターンも変わらないとしたら、家賃の総額はいつか購入費を追い越します。

クラウドで起きているのも、これに近いことです。需要が読めない立ち上げ期にはクラウドが圧倒的に有利で、負荷が一定に落ち着いた成熟期のシステムでは、自前のハードウェアのほうが安く収まる場合が出てくる。だから全部を戻すのではなく、条件に合うものだけを戻す動きになります。

なぜ2026年になって目立ってきたのか

理由は3つ重なっています。ひとつは、クラウドに移してから数年が経ち、請求書の内訳を落ち着いて見られる企業が増えたこと。

もうひとつは生成AIです。学習や推論はデータ量も計算量も桁が違うので、置き場所の判断が金額に直結するようになりました。この流れはAI推論基盤の話データセンターの電力事情ともつながっています。

そして3つ目が、規制とデータ主権です。個人情報や政府調達の分野で、データを国内に置くことを求める要求が強まりました。

言い方を変えると、クラウドが珍しいものではなくなったからこそ、冷静に比べられるようになった、ということだと思います。新しい道具が出たばかりの時期は、使うこと自体が目的になりがちです。数年経って当たり前になると、ようやく向き不向きの議論ができるようになる。いまはその段階に来ています。

数字を見てみよう。「86%」の正体

この話題でよく引用されるのが、CIOの86%が戻す予定という数字です。ただし、この数字は読み方を間違えると実態から離れてしまいます。

主な調査を並べてみます。

調査 数字 実際に意味していること
Barclays CIO調査(2024年Q4) 86%のCIOが移行を計画 少なくとも1つのワークロードを戻す予定、という割合
IDCの調査 約80%が短期的に一部を回帰 コンピュートやストレージの一部が対象
IDCの同調査 全面回帰は8〜9%程度 クラウドを丸ごとやめる企業はごく少数
Nutanix Enterprise Cloud Index 2026 57%が単一国内での運用を必要と回答 データ主権が判断材料に入ってきた

こうして並べると、風景がかなり変わって見えるのではないでしょうか。

「一部を戻す」と「全部やめる」はまったく違う

86%という数字は、少なくとも1件は戻す、という条件で数えた割合です。仮に100台のうち1台を自社に置いた企業も、この86%に入ります。

いっぽうで、全面的にクラウドから撤退する計画を持つ企業は1割に届きません。実際、この数字は誇張されているという指摘も海外メディアから出ています。

起きているのはクラウドからの撤退ではなく、ワークロードごとの置き場所の見直しである。

つまり、クラウドの時代が終わったのではなく、どこに置くかを選べる時代になった、と読むのが正確です。ハイブリッド構成が当たり前になった、と言い換えてもいいと思います。

こういう見出しの数字に出会ったときは、母数と条件を確かめる癖をつけておくと安心です。何%という数字そのものより、何を1件と数えたのかのほうが、たいてい重要な情報を持っています。

戻す判断は、どこから生まれるのか

では、どういうワークロードが戻されているのでしょうか。理由はだいたい3つに整理できます。

理由1:負荷が一定なら、自前のほうが安くなることがある

クラウドの料金は、使った時間に対して払うモデルです。だから、負荷が上下するシステムほど得をします。逆に、24時間ほぼ一定の負荷が続くシステムでは、割高になっていく場合があります。

有名な実例が、Basecampなどを運営する37signalsです。同社は2022年10月にクラウドを出ると宣言しました。当時の年間クラウド費用は約320万ドル。翌2023年には約70万ドルぶんのサーバーを購入して、7つのアプリケーションを半年で移しています。

結果として、2024年の年間費用は約130万ドルまで下がり、削減額はおよそ200万ドル。5年間で1000万ドルを超える削減見込みだと公表しています。しかも運用チームの人員は増やしていない、という点まで書かれています。

もちろん、これは自社でサーバーを扱える技術者が社内にいるからこそ成立した話です。同じことを誰でもできるとは限りません。

判断の材料になるのは、結局こういう地味な観測データです。

# 負荷が「波」なのか「平ら」なのかを見る
$ sar -u 1 5                  # CPU使用率の推移
$ vmstat 1 5                  # 実行可能プロセスとメモリの動き

# 課金に直結しやすい外向き通信量を把握する
$ vnstat -d                   # 日別の送受信量
$ ss -s                       # コネクション数の傾向

波が大きいならクラウド、平らなら自前、という単純な話ではありませんが、まず自分のシステムがどちらなのかを説明できることが出発点になります。

理由2:データは重い。動かすほどお金がかかる

クラウドの請求書を見て驚かされるのが、計算リソースそのものより、データの出し入れに関わる費用が積み上がっていることです。

データには重力があるとよく言われます。いったん大量のデータが貯まると、それを動かすコストが高すぎて、周りの処理もそのデータのそばに引き寄せられる。だからストレージやデータベースが回帰の対象になりやすいのです。

具体的な場面を思い浮かべると分かりやすいです。数十テラバイトのログを分析基盤に流し込むとき、その処理をどこで動かすかによって、通信量も待ち時間も大きく変わります。データが国内の自社設備にあるなら、その隣で計算したほうが速くて安い、という結論になることは珍しくありません。

このあたりの費用構造をどう管理するかは、FinOpsの記事で整理しているので、あわせて読んでもらえると立体的に見えると思います。

戻せば安くなる、とは限らない

ここまで読むと、戻したほうが得なのでは、と思えてくるかもしれません。ただ、実際の現場ではそう単純にいきません。

クラウドの請求書は毎月きれいに1枚届きますが、自社で持つ場合の費用は、あちこちに散らばって見えにくくなります。サーバー本体の価格だけを比べて判断すると、たいてい後で足が出ます。

見落とされやすいのは、こういった項目です。

見えやすい費用 見落としやすい費用
サーバーやストレージの購入費 故障時の交換部品と保守契約
データセンターのラック料金 電力と冷却、そして年々上がるその単価
回線費用 冗長化のためのもう1本、もう1台
構築の工数 24時間365日、誰が電話を取るのか

とくに最後の行が大きいです。クラウドでは事業者が担っていた夜間の対応を、戻した瞬間から自分たちで引き受けることになります。

先ほどの37signalsの例でも、運用チームを増やさずに済んだことがわざわざ強調されていました。裏を返せば、そこを担える人がいなければ成立しなかった、ということでもあります。

安くなったように見えるコストの多くは、消えたのではなく、誰かの仕事に置き換わっている。

だからこの判断は、金額の比較であると同時に、自分たちの体制をどう作るかという話でもあります。

理由3:データを置く国が問われるようになった

3つ目は技術というより制度の話です。個人情報保護や政府系のシステムでは、データをどの国のどの事業者の設備に置くかが問われます。

先ほどの調査で、半数を超えるIT責任者が単一の国の中でインフラを動かす必要を感じていると答えていました。これは価格では動かせない要件です。安いか高いかではなく、その場所でないと駄目、という判断になります。

国内の事情としては、円安の影響も指摘されています。ドル建てで請求されるクラウド料金は、為替が変われば何もしなくても円換算の支払額が増えるからです。

インフラエンジニアの仕事はどう変わるのか

さて、ここからが本題かもしれません。この流れは、私たちの働き方にどう影響するのでしょうか。

「どこに置くか」を説明できる人が強くなる

これまでは、クラウドのサービス名と設定画面を知っていることが価値になりました。これからは、そのワークロードをどこに置くべきか、根拠を持って説明できることが価値になります。

その説明に必要なのは、実は目新しい知識ではありません。

判断に必要な問い 土台になる知識
この負荷は一定か、波があるか OSのリソース監視、性能の見方
通信量はどこで発生しているか ネットワークの経路と帯域の考え方
戻したとき、誰が面倒を見るのか Linuxの運用、監視、バックアップ
止まったら何分で戻せるか 冗長構成と復旧手順の設計

右側に並んでいるのは、どれもクラウド以前からある基礎です。皮肉なようですが、クラウド回帰の時代に効いてくるのは、いちばん地味な土台の部分でした。

考えてみれば当然かもしれません。置き場所の候補が2つ以上あるということは、両方を比べられる物差しが要るということです。片方しか知らない人には、そもそも比較ができません。

しかも、この判断は一度きりではありません。事業が伸びれば負荷は変わり、為替や電力の単価も動きます。去年の正解が今年も正解とは限らない世界で頼りになるのは、そのつど自分で測って考え直せることのほうです。

クラウドしか触っていないと、見えない景色がある

マネージドサービスは本当によくできていて、ボタンひとつでデータベースが立ち上がります。便利な反面、その裏で何が起きているかは隠れます。

自社に戻すという判断が現実の選択肢になると、隠れていた部分が一気に表に出てきます。ディスクの構成をどうするか、バックアップをどこに置くか、ネットワークをどう分けるか。

ここで手が止まらない人になるには、やはりLinuxとネットワークを地に足のついた形で押さえておくのが近道です。InfraAcademyでは、サーバーの中で何が起きているかを追えるLinuxロードマップと、通信の流れを自分で説明できるようになるネットワークロードマップを用意しています。クラウドを使いこなすためにも、この土台は結局いちばん長く効きます。

入門を終えたあと、実務の視点をどう足していくかについては中級の壁を越える4つの視点にまとめたので、学習の順番に迷っている人はそちらも参考にしてみてください。

まとめ

2026年のクラウド回帰は、クラウドの終わりではありませんでした。

数字の上では多くの企業が戻すと答えていますが、その中身は一部のワークロードの移動で、全面撤退はごく少数です。戻す理由は、定常負荷のコスト、データの重さ、そして規制とデータ主権の3つに集約されます。

大事なのは、どちらが正しいかではなく、ワークロードごとに置き場所を選べることです。そして選ぶためには、OSとネットワークという昔からある土台が要ります。

流行の言葉は毎年入れ替わりますが、土台のほうは驚くほど変わりません。今日の記事が、次に何を勉強するかを決める材料になればうれしいです。

参考記事

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この記事を書いた人

ryu

InfraAcademy運営 / エンジニア

エンジニア歴10年。Linux、ネットワーク、クラウドを中心に、実務で役立つインフラ技術を初心者にもわかりやすく解説しています。

X: @ryu63614894

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