こんにちは、インフラエンジニアのryuです。
クラウドにサーバーを1台立ち上げるとき、その機械が実際にどこに置かれているか想像したことはあるでしょうか。
画面の上ではボタンひとつです。けれどその向こう側には、電気を食べて、その分だけきっちり熱を吐き出す金属の箱があります。
そして2026年のいま、その「電気」と「熱」が、インフラ業界でいちばん熱いテーマのひとつになっています。AIの普及でサーバー1台あたりの消費電力が跳ね上がり、これまで当たり前だった空気で冷やす方式が、物理的に追いつかなくなってきたからです。
今日は、データセンターの電力と冷却がいま何が起きているのかを、一次情報をたどりながら整理していきます。少し大きな話に聞こえるかもしれませんが、実はクラウドを使う私たちの日々の選択にもつながっている話です。
クラウドの向こう側には、電気を食べて熱を出す機械がある¶
まずは全体像から見ていきましょう。世界中のデータセンターは、いったいどれくらいの電気を使っているのでしょうか。
世界のデータセンターは、いま何ワット使っているのか¶
国際エネルギー機関(IEA)が公開している分析によると、2024年時点で世界のデータセンターの電力消費は約415テラワットアワー(TWh)でした。これは世界全体の電力消費のおよそ1.5%にあたります。
テラワットアワーと言われても、正直ピンと来ないですよね。ざっくり言えば、国ひとつが1年間に使う電気に匹敵する規模だと思ってください。
さらにIEAは、この数字が2030年ごろには約945TWh、世界の電力消費の3%弱まで、およそ倍増すると見込んでいます。2024年から2030年にかけての伸び率は年およそ15%で、これは他のあらゆる分野の電力需要の伸びの4倍以上のスピードです。
倍になる、という言い方は少し抽象的かもしれません。言い換えると、いま世界中にあるデータセンターと同じ規模のものを、もう一式ぶん、6年で建てて動かすということです。
増えている理由は、やっぱりAI¶
なぜここまで増えるのでしょうか。答えはほぼひとつで、AIです。
IEAの分析では、2024年の時点でAI向けサーバーがデータセンター全体の電力需要の15%ほど、サーバーの電力に限れば24%を占めていました。そしてこの割合は、これから急速に大きくなっていくと見られています。
AIの学習や推論にGPUが使われる理由については、以前になぜAIではGPUを使うのか?CPUとGPUの違いを解説で書きました。GPUは同じ計算を大量に並列でこなすのが得意な代わりに、消費電力もCPUとは桁が違います。
その電力は、最終的にほぼすべてが熱になります。ここが今日の話の核心です。コンピューターが使った電気は、計算という仕事をしたあと、ほぼ100%が熱として出てくるという物理法則からは、どんなに新しい技術でも逃げられません。
つまり、AIのために消費電力を増やすということは、そのまま「冷やさなければいけない熱を増やす」ということなのです。
1ラックあたりの電力が跳ね上がった¶
ここからが、いま現場で起きている変化です。問題になっているのは、データセンター全体の消費電力だけではありません。「狭い場所にどれだけ電力が集中しているか」、つまり電力密度のほうが、より切実な課題になっています。
平均11kWと、AIラック120kWのあいだにある溝¶
データセンターでは、サーバーをラックと呼ばれる背の高い棚に何段も収めます。その1ラックが何キロワット(kW)使うかが、設計上の重要な数字です。
Uptime Instituteが2026年に発表した16回目の年次調査(世界800社以上の事業者が回答)では、ラック密度の最頻値が初めて11kWを超えました。前年は9kWだったので、着実に上がってきています。同時に、ピーク時に30kW以上に達するラックを持つ事業者も増えている、と報告されています。
一方で、AI向けの最新機材はどうでしょうか。NVIDIAがAI基盤向けに提供しているGB200 NVL72は、72基のGPUと36基のCPUを1つのラックにまとめた構成で、満載時のラック全体の消費電力はおよそ120kWとされています。
数字を並べてみると、その差がよく分かります。
| ラックの種類 | 1ラックの電力の目安 | 主な冷却方式 |
|---|---|---|
| 一般的な企業システム(2021年ごろ) | 5〜7kW | 空冷 |
| 一般的な企業システム(2026年の最頻値) | 11kW前後 | 空冷 |
| 高密度・HPC用途 | 30kW以上 | 空冷+補助、またはリアドア |
| AI学習・推論向けラック | 100kW超 | 直接液冷が前提 |
同じ「1ラック」という言葉なのに、中身の熱量は10倍以上違います。従来のデータセンターにAI用のラックをそのまま持ち込めない理由が、ここにあります。
なぜ空気では冷やしきれなくなるのか¶
そもそも、なぜ空気だと限界が来るのでしょうか。
身近なたとえで考えてみましょう。真夏に扇風機の前に立つと涼しく感じますよね。でも、目の前でストーブを全開にされたら、扇風機をいくら強くしても追いつきません。
空気は熱を運ぶ能力が高くありません。同じ体積で比べると、水が運べる熱量は空気のおよそ3000倍以上と言われます。熱が増えたぶんだけ風量を上げようとすると、ファンが大きくなり、うるさくなり、そのファン自体がまた電気を食べる、という悪循環に入ります。
現場では、ラックの電力が20kWを超えたあたりから液体を使う冷却を検討すべき、という目安がよく語られます。100kWのラックを空気だけで冷やそうとするのは、扇風機でストーブに立ち向かうようなものだ、と考えると分かりやすいかもしれません。
だから、熱を運ぶ役目を空気から液体に交代させる動きが加速しているのです。
冷やし方はどう変わった?空冷から液冷への移行¶
液冷、と一言で言っても方式はいくつかあります。それぞれ、どこまで冷やせるかと、導入のしやすさが違います。
直接液冷(Direct-to-Chip)とは¶
いま主流になりつつあるのが、直接液冷(Direct-to-Chip、DTC)です。
発熱するCPUやGPUの上に、コールドプレートと呼ばれる金属の板を密着させます。その内部に冷却液を流して、熱をピンポイントで受け取って外へ運び出す仕組みです。
イメージとしては、熱を出しているところに水枕を直接あてる感じでしょうか。部屋全体を冷やすのではなく、熱源だけを狙い撃ちします。
この方式が広がっている理由は、既存の建物をそのまま活かせるからです。サーバーの形も大きく変える必要がなく、ラック単位で少しずつ入れていけます。おおむね100kWから175kW程度の密度帯を担う技術として位置づけられています。
液浸冷却(Immersion)とは¶
もうひとつが液浸冷却です。こちらは、サーバー本体を電気を通さない液体の中にまるごと沈めてしまいます。
言葉だけ聞くと驚きますが、絶縁性の液体なのでショートはしません。基板全体が液体に触れるので冷却効率は非常に高く、空冷と比べてはるかに高い密度を実現できます。
ただし、専用の水槽が必要で、サーバーの筐体も専用設計になります。メンテナンスの手順も、液体から機材を引き上げるところから始まるので、従来とはまったく別物です。2026年時点では、冷媒に使われる薬剤の環境規制への対応も課題として議論されています。
3つの方式を並べてみると、こう整理できます。
| 方式 | 熱を運ぶもの | 対応できる密度 | 導入のハードル |
|---|---|---|---|
| 空冷 | 空気 | 〜20kW程度 | 低い(既存設備でOK) |
| リアドア熱交換器 | ラック背面の水配管 | 20〜50kW程度 | 中(ラック単位で追加) |
| 直接液冷(DTC) | 冷却液+コールドプレート | 100〜175kW程度 | 中(配管と分配装置が必要) |
| 液浸冷却 | 絶縁性の液体 | さらに高密度 | 高い(専用設備・専用筐体) |
なお、Uptime Instituteの調査では、液冷の採用が進む一方で、運用の複雑さや未解決の課題が広がりを抑えている面もある、と指摘されています。技術としては有望でも、24時間動かし続ける設備に水系の配管を通すというのは、運用側から見ると決して軽い決断ではないわけです。
PUEという物差しと、日本のルールが変わった2026年¶
冷却の話をするとき、必ず出てくる指標があります。PUEです。
PUEは何を測っている指標なのか¶
PUE(Power Usage Effectiveness)は、データセンターの電力効率を表す指標です。計算式はとてもシンプルです。
PUE = データセンター全体の消費電力 ÷ ICT機器(サーバー等)の消費電力
PUEは、(DC全体の消費電力)÷(サーバなどのICT機器の消費電力)で算出され、DC内の建物・付帯設備の効率を評価する指標である。 — 資源エネルギー庁「省エネ・非化石転換法に基づくデータセンター業に係る措置」
つまり、サーバーそのもの以外に、冷却や照明でどれだけ余分な電気を使っているかを表す数字です。理論上の最小値は1.0で、小さいほど効率が良いことになります。
具体的なイメージを持つために、数字を並べてみます。
| PUE | 意味 | 感覚的な言い方 |
|---|---|---|
| 2.0 | サーバー1に対し、設備でもう1使っている | 電気の半分が冷却などに消えている |
| 1.5 | サーバー1に対し、設備で0.5 | 一昔前の平均的な水準 |
| 1.2 | サーバー1に対し、設備で0.2 | 新設の高効率施設の水準 |
冷却方式の話とPUEはまっすぐつながっています。ファンやチラーで大量に電気を使えばPUEは悪化し、効率よく熱を運び出せればPUEは改善します。
日本では法律の側からも動きがあった¶
そして2026年、日本ではこの数字が「努力目標」から一歩踏み込んだ位置づけになりました。
資源エネルギー庁は2026年4月10日、省エネ・非化石転換法に基づくデータセンター業に係る措置のガイドラインを策定しています。公開資料によると、2026年7月1日以降に運用を開始するデータセンターには、年平均のPUEを1.2以下とすることが求められ、試運転後2年以内に恒久的に達成することが必要とされています。
あわせて、データセンター業に関わるエネルギー使用量が1,500kl以上の事業者は、2026年度以降、中長期計画書を提出する際にデータセンター業の中長期計画書もあわせて出す必要がある、と整理されています。
なお、既存施設を含むベンチマーク制度では、対象事業者の平均PUEを1.4以下にすることが目標として示されてきました。新しく建てる施設にはより厳しい基準が課される、という方向性です。
法律の話は縁遠く感じるかもしれません。でも見方を変えると、データセンターの電力効率が、事業者の努力目標ではなく事業の前提条件になったということです。これはインフラ業界にとって、それなりに大きな変化だと思います。
私たちインフラエンジニアの仕事は、どう変わる?¶
ここまで読んで、「でも自分はデータセンターを建てるわけじゃないし」と思った方も多いのではないでしょうか。
私もそう思います。ほとんどのインフラエンジニアは、液冷の配管を設計する立場にはいません。それでも、この流れは私たちの仕事に確実に降りてきます。
クラウドを使う側にも降りてくる変化¶
まず、リソースの値段と入手しやすさに効いてきます。GPUインスタンスが特定のリージョンでしか使えなかったり、必要なときに空きがなかったりするのは、その裏側に電力と冷却の制約があるからです。
AWSのEC2とは何かを学ぶとき、私たちはCPUとメモリとストレージを見ます。これからはそこに「そのインスタンスがどれだけ電気を使う機械の上で動いているのか」という視点が加わっていきます。
次に、無駄を減らす動きが以前より重い意味を持ちます。使っていない開発環境を止める、オーバースペックなインスタンスを落とす、といった地味な作業は、これまでコスト削減の話でした。いまはそこに電力の話が重なります。この観点はFinOpsとクラウドコストの考え方とほとんど地続きです。
AIのモデルを動かし続ける基盤そのものについては、AI推論基盤がインフラエンジニアの仕事を変える話でも触れました。動かす場所の物理的な制約を知っておくと、あの話はもう一段深く読めるはずです。
まずは手元のサーバーの電力と温度を見てみる¶
抽象的な話ばかりでも身につかないので、手を動かせるところから始めるのがおすすめです。
Linuxが動いている機械なら、温度や消費電力は自分で確認できます。
# CPUやマザーボードの温度センサーを読む(要 lm-sensors)
sensors
# サーバーの電力・ファン・温度をIPMI経由で見る
ipmitool sdr type Temperature
ipmitool sensor
# GPUの消費電力と温度をリアルタイムに確認する
nvidia-smi --query-gpu=name,temperature.gpu,power.draw,power.limit --format=csv
nvidia-smi の出力で、GPUが負荷をかけたときにどれだけワット数が跳ね上がるかを見ると、さきほどの120kWという数字が急に現実味を帯びてきます。
こうしたコマンドを読むには、Linuxの基礎が土台になります。まだ不安がある方はLinuxコマンド初心者向けの解説から入って、AWSのロードマップでクラウドの実機に触れてみると、机上の知識と現場の感覚がつながります。InfraAcademyでは、こうした基礎から実務までを順番に積み上げられるように講座を用意しているので、興味があればのぞいてみてください。
さらに、こうした電力や温度を継続的に記録して眺めるという発想は、オブザーバビリティ(可観測性)の考え方そのものです。監視の対象はアプリケーションのメトリクスだけではありません。
まとめ¶
今日はデータセンターの電力と冷却について、2026年の状況を追いかけてみました。
要点を振り返ります。世界のデータセンターの電力消費は2024年で約415TWh、2030年には倍増が見込まれていて、その最大の要因はAIです。ラックあたりの電力密度は最頻値で11kWまで上がり、AI向けラックでは120kW級に達します。空気では熱を運びきれず、直接液冷や液浸冷却への移行が進んでいます。そして日本でも、新設データセンターのPUEに具体的な基準が示されました。
インフラエンジニアの仕事は、これまでソフトウェアの側にどんどん寄ってきました。コードで基盤を書き、宣言的に運用する方向です。その一方で、いちばん下の層には電気と熱という、逃れようのない物理があります。
面白いのは、その物理がいままた前面に出てきたことです。仮想化とクラウドが覆い隠していた「機械の重さ」が、AIの登場で再び顔を出したとも言えます。
全部を理解する必要はありません。ただ、自分が動かしているサーバーの向こう側に、電気を食べて熱を出す本物の機械があると知っているだけで、設計の判断は少し変わってきます。無駄なリソースを一つ落とすことの意味も、少し変わってくるはずです。
その感覚を持ったインフラエンジニアは、これからきっと強いと思います。今日から、手元のサーバーの温度を一度眺めてみませんか。
参考記事¶
- Energy and AI – Executive summary(IEA)
- World Energy Outlook Special Report: Energy and AI(IEA、PDF)
- Uptime Institute 16th Annual 2026 Global Data Center Survey(Uptime Institute)
- 省エネ・非化石転換法に基づくデータセンター業に係る措置(資源エネルギー庁、PDF)
- 省エネ・非化石転換法に基づくデータセンター業に係る措置のガイドライン(資源エネルギー庁、PDF)
- PUEガイドライン/ベンチマーク制度(日本データセンター協会)
- GB200 NVL72(NVIDIA)



