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客先に出た新人インフラエンジニアは、誰が育てるのか。常駐という働き方に合わせた育成の組み立て方

| #人材育成 #新人育成 #OJT
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こんにちは、インフラエンジニアのryuです。

研修を終えた新人が配属される先は、いつも自社のオフィスとは限りません。インフラの仕事は、お客様のデータセンターや、元請けのプロジェクトルームで動いていることが多いからです。

入社から3か月は自社の会議室で手厚く見ていた新人が、ある日から別の会社の座席に座る。そこから先、その新人が何をどれだけ身につけているのか、育成担当者から見えなくなる。

心当たりのある方は、少なくないのではないでしょうか。

常駐という働き方は、日本の情報サービス産業ではごく一般的です。それなのに、新人インフラエンジニア研修の設計は「配属後も自社の先輩が隣にいる」前提で組まれていることが多い。ここに大きなずれがあります。

厚生労働省の能力開発基本調査では、能力開発や人材育成に問題があるとする事業所が8割を超え、その理由の上位には「指導する人材が不足している」が並びます。常駐が多い会社では、この「指導する人材」が、そもそも新人と同じ場所にいません。

今日は、常駐に出た新人をどう育て続けるかを考えてみます。契約の話も出てきますが、担当者が押さえておくべき肝は3つほどしかありません。

常駐に出た瞬間、育成の前提が2つ崩れます

まず、何が変わるのかを整理しておきます。変わるのは場所だけではありません。

崩れる前提1:教える人が、自社の人ではなくなる

自社勤務であれば、隣の席の先輩が新人の手元を見て、違うところを直せます。これがいわゆるOJTです。

常駐に出ると、隣の席にいるのはお客様の社員か、別の会社から来たエンジニアになります。日々の作業を見ているのは、自社の誰でもありません。

つまり、育成の主役として想定していた「自社の先輩」が、物理的にいなくなります。

崩れる前提2:任される仕事が、契約で決まってしまう

もうひとつは仕事の範囲です。自社の案件なら、新人の成長に合わせて「次はこの作業をやってみようか」と渡す仕事を変えられます。

常駐先ではそうはいきません。そのプロジェクトで自社が受けている役務の範囲が決まっていて、新人が触れるのはその一部です。

運用監視のシフトに入っていれば、監視画面とアラート対応が仕事の中心になります。構築も設計も、契約の外にあるので回ってきません。半年経っても、経験の幅が最初の週と変わらない。これが常駐でいちばん起きやすい停滞です。

手元の自由度も下がります。常駐先の環境では、渡されるアカウントの権限が業務範囲ぴったりに絞られているのが普通です。試しにコマンドを打って様子を見る、設定ファイルを開いて構造を眺める、といった学びにつながる寄り道が、そもそもできません。

自社の検証環境なら「壊して直す」ができますが、お客様の本番環境ではそれは許されません。当然のことなのですが、育成の観点で見ると、いちばん伸びる練習の機会がそこには無いということになります。

このあたりは、未経験の入り口は、たいてい運用監視。アラートを眺めるだけで終わらせない過ごし方で学習者の側から書いたことと同じ構図です。違うのは、常駐の場合は本人の意欲だけでは範囲を広げられない、という点です。

「常駐先の先輩に見てもらう」は、契約上できないことがあります

ここが、担当者にいちばん知っておいてほしいところです。

「せっかく常駐しているのだから、お客様の熟練エンジニアに面倒を見てもらえばいい」と考えたくなります。ところが契約の形によっては、それをお願いしてはいけません。

請負・準委任なら、日々の指示は自社から出すのが原則

システム開発や運用の常駐は、請負契約か準委任契約で結ばれていることが多いです。この場合、働く人に業務の指示を出すのは、受注した側、つまり自社です。

発注者であるお客様が、常駐している自社の社員に直接作業の指示を出すと、契約は請負なのに実態は労働者派遣、という状態になります。これがいわゆる偽装請負です。厚生労働省は「労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準」(37号告示)と、その疑義応答集で、どこからが直接の指揮命令にあたるのかを示しています。

技術指導についても、例外は限定的です。

発注者が請負労働者に対して技術指導を行える場面として疑義応答集が挙げているのは、安全衛生上緊急に対応する必要がある場合や、新しい機械が導入されて従来の方法では作業できない場合など、限られたケースです。日常的な育成をお客様に委ねる前提は置けません。

つまり、常駐先の先輩に新人の面倒を見てもらうことは、善意でやっているつもりでも、契約の実態を崩してしまう行為になりえます。

派遣なら指揮命令はお客様。それでも教育訓練の義務は自社に残る

一方、労働者派遣契約であれば、業務の指揮命令は派遣先が出します。ここは請負と逆です。

ただし、だからといって育成を任せられるわけではありません。労働者派遣法第30条の2は、派遣元事業主に対して、雇用する派遣労働者が段階的かつ体系的に技能と知識を習得できるよう教育訓練を実施することを求めています。

契約形態ごとに整理すると、こうなります。

契約の形 日々の業務指示を出すのは 育成の責任を負うのは
請負・準委任(いわゆるSES) 自社(受注者) 自社
労働者派遣 常駐先(派遣先) 派遣元である自社
自社案件・自社サービス 自社 自社

どの行を見ても、育成の責任は自社から動きません。場所が離れても、育てるのは会社の仕事です。

ここを曖昧にしたまま「現場で覚えてもらう」と言ってしまうと、誰も教えていない状態が半年続きます。

離れていても残せる接点を、先に決めておく

では、どうするか。常駐に出た新人と会社をつなぐ接点を、あらかじめ仕組みとして決めておくのが現実的です。

思いついたときに声をかける、では続きません。カレンダーに入っているものだけが残ります。

接点1:週に一度、作業を言葉にしてもらう

いちばん効くのは、週1回30分の振り返りです。上司が進捗を確認する場ではなく、新人が自分の作業を説明する場として設計します。

やったことを並べるだけでは学びになりません。次のような形を先に渡しておくと、書く内容が変わります。

■ 今週やったこと(作業名と件数)
■ 手順書どおりに進まなかったこと
   - 何が起きたか
   - どう調べたか(どのログ・どのコマンド)
   - 誰に相談して、どう決着したか
■ 意味が分からなかった用語・設定
■ 来週わかるようになりたいこと(1つだけ)

意味が分からなかった用語を毎週1つ拾えれば、1年で50個になります。常駐先では聞きにくい「そもそもこれ何ですか」を、自社に持ち帰れる場所を作っておくわけです。

聞き方も少し工夫が要ります。「困っていることはある?」と尋ねても、たいてい「特にありません」と返ってきます。常駐先で気を張っている新人は、弱みを見せる余裕がないからです。

代わりに、作業の中身を具体的に聞きます。今週いちばん時間がかかった作業はどれで、何に時間を使ったのか。そこを辿っていくと、本人も気づいていなかったつまずきが出てきます。

この振り返りは、リモート前提でも十分に機能します。オンラインでの育成の勘所はリモート・ハイブリッド時代の新人インフラエンジニアの育て方にまとめています。

接点2:常駐先で触れない領域を、自社の学習で埋める

常駐先の仕事だけでは、経験の幅が偏ります。そこで、偏っている部分を自社側の学習で埋めます。

監視オペレーションに入っている新人であれば、自分ではサーバーを構築する機会がありません。ならば、検証環境で一度Linuxを立てて、サービスの起動から名前解決の確認までを通してやってみる。手を動かす場所は、会社が用意します。

埋めるべき領域は、たいてい似ています。名前解決やルーティングのように、画面の向こうで起きていて普段は意識しない部分。そして、サーバーを一から立てる手順のように、完成した環境を触るだけでは通らない部分です。全体像を示す地図としては、インフラエンジニアの学習ロードマップのような並びが目安になります。

ここで大事なのは、埋める領域を新人に選ばせないことです。何が足りないかは、まだ本人には見えていません。到達してほしい範囲を先に定義して、そこから逆算します。

スキルの見える化のやり方はスキルの見える化と進捗管理のすすめで詳しく書いています。常駐の場合は、この一覧が「常駐先で埋まる項目」と「自社で埋めるしかない項目」に分かれるのが特徴です。

接点3:同じ会社の人と会う場を、月に一度つくる

見落とされがちなのが、所属感です。

常駐先で数か月過ごすと、新人にとっての日常はお客様の会社になります。自社の社員と話すのは、月次の勤怠を出すときだけ。こうなると、悩みを相談する相手が社内にいません。

同じ会社の同期がどんな現場で何をしているかも、分からなくなります。自分の経験が遅れているのか進んでいるのかを測るものさしが無い状態は、想像以上に不安なものです。

早期離職は、この状態から静かに始まります。辞める理由が仕事の内容ではなく「この会社にいる意味が分からない」になるのは、接点が切れているときです。

月に一度でいいので、同じ時期に入った同僚と顔を合わせる場を作っておく。勉強会でも、帰社日でも構いません。前向きな相談が出てくる場所を残しておくことが、結果的に定着につながります。オンボーディングと定着の関係は早期離職を防ぐオンボーディング設計でも触れました。

契約の壁を越えずに、常駐先と協力する方法

常駐先に直接指導を頼めないとしても、協力できる余地はあります。順序を守ればよいだけです。

相談は、現場ではなく会社と会社の間で

新人のスキルや任せられる範囲のすり合わせは、現場のエンジニア同士ではなく、自社の営業や案件責任者を通して行います。「次の四半期はこの作業も担当できるようにしたい」という相談は、契約の見直しや役務範囲の調整として扱う話です。

現場の新人に直接ではなく、会社と会社の間で決める。この線を守るだけで、育成の希望を伝えることは十分にできます。

断り方と持ち帰り方を、先に教えておく

常駐先から作業内容の変更や増加を依頼されたとき、新人がその場で「はい」と答えてしまわないように教えておくことも育成の一部です。判断を自社に戻す癖は、早いうちに身につけたほうが本人を守ります。

「一度、弊社の担当に確認します」と言えるようにしておく。たったこれだけのことですが、新人にとっては言いにくい一言です。研修の段階で、言い方ごと渡しておくとよいと思います。

学びの土台は、場所に依存しない形で用意する

ここまで読んで、「接点を作るのはわかったが、教材と教える人が足りない」と感じた方もいるはずです。

常駐が多い会社ほど、自社に集まって研修をする時間が取りにくく、教える側のエンジニアも現場に出ています。それでも育成を止めないためには、場所と人に依存しない学習の土台が必要になります。

InfraAcademyは、Linux・ネットワーク・クラウドの基礎をハンズオン中心に学べるオンライン講座です。常駐先の座席からでも、帰社日の勉強会からでも、同じカリキュラムに戻ってこられます。どの単元まで進んだかが見えるので、週次の振り返りで「今週はここまで」と共有する材料にもなります。

法人での導入や進め方のご相談は法人プランをご覧ください。まずは自習の軸として使ってみたい場合は、Linuxのロードマップから範囲を眺めてみるのがわかりやすいと思います。

もうひとつ添えておくと、共通の教材は現場が散らばっているときほど効きます。全員が同じ順番で同じ範囲を通っていれば、配属先が違っても「あれはやりましたね」という共通言語が生まれます。帰社日の会話が噛み合うようになるのは、その効果です。

会社が渡せるものは、常駐先で得られる経験だけではありません。体系だった土台と、戻ってこられる場所。この2つは、離れていても渡せます。

まとめ

常駐に出た新人インフラエンジニアの育成について、整理しておきます。

常駐で崩れる前提は2つで、教える人が自社の人でなくなることと、任される仕事の範囲が契約で決まってしまうことです。放っておくと、経験の幅が最初の数週間から広がりません。

そして、常駐先の先輩に育ててもらう前提は置けません。請負・準委任なら発注者からの直接の指揮命令は偽装請負にあたり、派遣であっても教育訓練の義務は派遣元である自社に残ります。契約の形がどうであれ、育てるのは会社の仕事です。

だからこそ、離れていても残る接点を先に決めておきます。週に一度の振り返り、常駐先で埋まらない領域の穴埋め、月に一度の顔合わせ。どれも派手な施策ではありませんが、カレンダーに入っている限り効き続けます。

常駐は、新人にとって不利な働き方だと決まっているわけではありません。お客様の本番環境に早く触れられるという意味では、恵まれてもいます。あとは、そこで得た経験を会社が受け止めて言葉にする場があるかどうかです。その場を用意するところから始めてみてください。

参考記事

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この記事を書いた人

ryu

InfraAcademy運営 / エンジニア

エンジニア歴10年。Linux、ネットワーク、クラウドを中心に、実務で役立つインフラ技術を初心者にもわかりやすく解説しています。

X: @ryu63614894

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