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せっかく採った新人インフラが辞める前に。早期離職を防ぐオンボーディング設計

こんにちは、インフラエンジニアのryuです。

苦労して採用した新人が、半年、一年で静かに辞めていく。育てる側にとって、これほどこたえることはないのではないでしょうか。

採用にかけた費用、先輩がつきっきりで教えた時間。それらが、退職届の一枚でふっと消えてしまう。

「最近の若い子は根性がない」で片づけてしまいたくなる気持ちも分かります。でも、少しだけ立ち止まって考えてみたいのです。

本当に、辞めた本人だけの問題だったのでしょうか。今回は、新人インフラエンジニアの早期離職を、育てる側の「立ち上がりの設計」という角度から見直してみます。

せっかく採った新人が、なぜ辞めてしまうのか

まず、これは特定の会社の話ではありません。データを見ると、早期離職はどこでも起きている、ごくありふれた現象です。

3年以内に3割が辞めるという現実

厚生労働省の調査によると、大学を卒業して就職した人のおよそ3割が、入社から3年以内に会社を離れています。令和4年3月に卒業した人では、その割合は33.8パーセントにのぼりました。

3人採ったら1人は3年以内にいなくなる。そう考えると、決して他人事ではない数字です。

インフラの現場は、そもそも慢性的な人手不足です。経済産業省の試算では、IT人材は2030年に最大でおよそ79万人足りなくなるとされています。

やっと採れた一人が抜ける痛みは、人が余っている業界の比ではありません。だからこそ、辞めさせない工夫が、採用と同じくらい大切になります。

採用に力を入れる会社は多いのに、迎え入れたあとの設計となると、とたんに手薄になりがちです。入り口ばかり広げて、出口の穴をふさがない。これでは、いくら採ってもザルで水をすくうようなものです。

辞める理由は「スキル不足」ではない

ここで多くの人が誤解しています。新人が辞めるのは、仕事についていけないから、技術が難しすぎるから。そう思われがちです。

けれど、実際に若手が挙げる離職理由の上位は、少し違います。リクルートマネジメントソリューションズの調査では、労働環境や条件、職場の人間関係、仕事内容とのミスマッチといった理由が並びます。

つまり、辞める引き金の多くは、技術の難しさそのものではなく、職場になじめないことなのです。

孤立感、放置されている感覚、何を目指せばいいのか分からない不安。こうした心理的なつまずきが、静かに人を辞めさせていきます。

もう少し具体的に想像してみましょう。入社して数週間、質問しても先輩は忙しそうで、自分の仕事が誰かの役に立っている実感もない。毎日ただ画面を眺めて一日が終わる。

そんな日々が続けば、いくら技術が好きでも、心はすり減っていきます。辞める人の多くは、大きな不満を爆発させて出ていくわけではありません。小さな不安が積もって、静かに離れていくのです。

裏を返せば、ここは工夫の余地が大きいということでもあります。技術を一晩で天才に変えることはできませんが、なじみやすい環境を整えることはできるからです。

そして環境づくりは、お金よりも設計と気配りで動く部分が大きい。ここが、育てる側にとっての希望だと私は思っています。

オンボーディングとは?普通の研修と何が違うのか

そこで近年よく聞くようになったのが、オンボーディングという言葉です。研修と何が違うのか、まず整理しておきましょう。

「立ち上がり」を丸ごと支える仕組み

オンボーディングとは、もともと「船や飛行機に乗り込む(on-board)」という意味の言葉です。転じて、新しく入った人が、組織になじんで戦力になるまでを、計画的に支える一連の取り組みを指します。

研修が主に知識やスキルを教える場だとすれば、オンボーディングはそれを含めて、人間関係づくりや心理的な安心までを射程に入れます。

引っ越しにたとえると分かりやすいかもしれません。新居のカギを渡して終わりなのが従来の入社。近所を案内し、ゴミ出しのルールを教え、困ったら聞ける人を紹介するところまでやるのがオンボーディングです。

前者では、新人は地図もなく知らない街に放り出されます。心細くなって当然です。

この違いは、入った人の一年後に大きな差となって表れます。案内された人は街になじみ、自分から動けるようになります。放り出された人は、いつまでも様子をうかがったまま、やがて別の街を探し始めます。

なぜ研修だけでは足りないのか

真面目に研修をやっている会社ほど、「うちはきちんと教えている」と思いがちです。でも、研修が終わった瞬間に手が離れてしまうと、そこに空白が生まれます。

研修で学んだことと、現場の実務のあいだには、必ず溝があります。その溝を一人で飛び越えろと言われると、多くの新人はひるみます。

オンボーディングは、この溝に橋をかける発想です。学びと実務、個人と組織のあいだを、時間をかけてつないでいくのです。

橋は、一日では架かりません。少しずつ実務を任せ、うまくいったら次を託す。その繰り返しの中で、新人は自信を積み上げていきます。研修が終わってからのこの数か月こそ、じつは定着を左右する山場なのです。

早期離職を防ぐオンボーディングの組み立て方

では、具体的にどう組み立てればいいのでしょうか。大切なのは、点ではなく線で設計することです。入社日という一点ではなく、入社前から数か月先までを一本の線として考えます。

期間で区切って設計する

いきなり完璧を目指すと続きません。まずは時間軸をいくつかに区切り、それぞれで何を支えるかを決めるところから始めましょう。目安を表にしてみます。

時期 主な目的 具体的な取り組みの例
入社前 不安をやわらげる 歓迎の連絡、初日の流れの共有、必要な準備の案内
初日〜1週間 居場所をつくる 座席・アカウント準備、チーム紹介、相談相手の指定
1か月 基礎を固める 環境構築の実習、社内ルールの習得、こまめな面談
3か月 小さな成功体験 一人で完結できる小さな担当を持たせる
半年 自走を支える 振り返り面談、次の目標設定、独り立ちの見極め

この表を一枚つくるだけでも、「入社したら現場に丸投げ」という状態からは抜け出せます。

とくに見落とされがちなのが、入社前の時期です。内定から入社までのあいだ、放っておくと新人の気持ちは冷えていきます。歓迎の一報を入れておくだけで、初日の緊張はずいぶんやわらぐものです。

反対に、あれもこれもと詰め込みすぎるのも考えものです。最初の一か月から高い成果を求めると、新人は追い詰められます。この時期はまず、安心して居られる場所をつくることを最優先に考えたいところです。

相談できる相手を必ず用意する

数ある施策の中で、費用がほとんどかからないのに効果が大きいものがあります。新人一人ひとりに、気軽に相談できる先輩をつけることです。

メンターやバディと呼ばれる役割です。業務上の上司とは別に、日々の小さな疑問や不安を受け止める伴走者を用意します。

新人は、たいてい「こんなことを聞いたら迷惑では」とためらいます。その心理的なハードルを下げるだけで、孤立はぐっと減ります。

このとき、メンター役に選ぶのは、必ずしもいちばん技術に詳しい人でなくて構いません。むしろ、話しかけやすく、新人の目線に立てる人のほうが向いています。年次が近い先輩なら、自分がつまずいた記憶も新しく、共感しながら支えられます。

役割を任される先輩の側にも、メリットがあります。人に教えることで自分の理解が整理され、後輩を育てる経験は、その人自身の成長にもつながるからです。支える側と支えられる側、その両方が伸びていくのが理想の形です。

わからないことを、わからないと言える。その一言が言える職場かどうかで、新人の立ち上がりは大きく変わる。

このメンター制度をどう設計するかは、インフラエンジニアのメンター支援について書いた記事でも掘り下げています。仕組みづくりの参考にしてみてください。

定期的に「聞く場」をつくる

もう一つ欠かせないのが、定期的な面談です。1on1と呼ばれる、1対1で話す短い時間を、意識して確保します。

ポイントは、進捗の確認だけで終わらせないことです。困っていないか、人間関係でつまずいていないか。数字に出ない部分を聞き取る場にします。

簡単なメモの型を決めておくと、面談の質が安定します。たとえば、こんな観点を毎回たどるだけでも十分です。

【1on1メモの型】
- 今週できるようになったこと(本人の実感)
- つまずいている点・もやもやしている点
- 人間関係やチームへのなじみ具合
- 次の1〜2週間の小さな目標
- こちらから伝えるフィードバック(できるだけ良い点も)

大がかりなツールは要りません。共有の表計算ソフト一枚で始められます。大事なのは、続けることです。

隔週でも月に一度でも構いません。定期的に顔を合わせる約束があること自体が、新人にとっては「気にかけてもらえている」という安心につながります。忙しさにまぎれて面談が立ち消えになる、というのがいちばん避けたいパターンです。

インフラ職ならではの、立ち上がりのつまずき

ここまでは職種を問わない話でした。最後に、インフラエンジニアという仕事に特有の落とし穴にも触れておきます。

「わからないことが、わからない」問題

インフラは、扱う範囲がとても広い仕事です。Linux、ネットワーク、クラウド、セキュリティ。どこから手をつければいいのか、新人には見当もつきません。

ベテランには当たり前の全体像が、入りたての人には霧の中です。この「わからないことがわからない」状態は、想像以上に人を消耗させます。

質問しように、何を質問すればいいのかが分からない。調べようにも、どの言葉で検索すればいいのかも見当がつかない。この段階の新人は、無力感を抱えやすいものです。

だからこそ、学ぶべきことの地図を早めに渡してあげることが、何よりの安心材料になります。ゴールが見えれば、人は前に進めるからです。

学習の「地図」をそろえておく

未経験からの立ち上がりを支える土台として、体系立った学習ルートがあると心強いものです。行き当たりばったりではなく、順番の整理された教材があると、新人は迷わず手を動かせます。

たとえばLinuxの学習ロードマップのように、何をどの順で学ぶかが示された道筋があると、指導する側の負担も減ります。教える内容がぶれず、進捗も測りやすくなるからです。

私たちが運営している学習サービス InfraAcademy でも、Linux・ネットワーク・クラウドの基礎を、手を動かしながら段階的に学べるように設計しています。新人が自分のペースで前に進め、先輩は要所だけ支える。そんな役割分担がしやすくなります。

未経験者をどう戦力にしていくかについては、未経験からのインフラエンジニア育成をまとめた記事や、インフラ新人研修の設計を解説した記事もあわせて読むと、全体像がつかみやすいはずです。

自社の新人育成にどう組み込むか、具体的に相談したい場合は、InfraAcademyの法人プランのご案内から気軽にお問い合わせいただけます。立ち上がりの設計から一緒に考えられればと思います。

よくある疑問

早期離職の話をすると、現場からよく出てくる疑問にも答えておきます。

忙しくて、そこまで手をかけられません

「日々の運用で手一杯で、新人にかまう余裕がない」。これは本当によく聞く声です。

けれど、順番が逆かもしれません。立ち上がりに手をかけないから、いつまでも新人が戦力にならず、結果として忙しさが続く、という悪循環もあるからです。

最初の数か月に集中して支えることは、長い目で見れば時間の投資です。早く独り立ちすれば、その分だけ現場は楽になります。

そしてもし辞められてしまえば、また一から採用と教育をやり直すことになります。その労力を思えば、いま目の前の新人を支えるほうが、はるかに安いのです。

手をかけると、かえって甘やかしになりませんか

支えることと、甘やかすことは違います。オンボーディングは、答えを全部教えることではありません。

自分で考え、手を動かせる環境と、つまずいたときに相談できる相手を用意する。そのうえで、挑戦は本人に任せる。これは甘やかしではなく、自走を促す土台づくりです。

むしろ、支えがない中での放置こそ、成長の機会を奪います。転ぶ前に手を差し伸べるのではなく、転んでも立ち上がれる場所を先に整えておく。そんな距離感が、ちょうどいいのだと思います。

まとめ

新人が辞める理由は、本人のスキル不足だと思われがちです。でも実際に多いのは、職場になじめず、孤立し、何を目指せばいいか分からないという、立ち上がりのつまずきでした。

だからこそ、採用と同じくらい、迎え入れる側の設計が効いてきます。入社前から数か月先までを一本の線で考え、相談相手を用意し、聞く場をつくる。特別なことは一つもありません。

そして、インフラという広い世界に踏み出す新人には、学びの地図を早めに渡してあげること。霧が晴れれば、人は自分の足で歩き出せます。

せっかく縁あって入ってくれた一人が、辞めずに一人前へと育っていく。その第一歩は、立ち上がりを支えるという地味な設計から始まります。読んでくださって、ありがとうございました。

参考記事

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この記事を書いた人

ryu

InfraAcademy運営 / エンジニア

エンジニア歴10年。Linux、ネットワーク、クラウドを中心に、実務で役立つインフラ技術を初心者にもわかりやすく解説しています。

X: @ryu63614894

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