こんにちは、インフラエンジニアのryuです。
みなさんの会社の複合機は、スキャンした書類をどうやってメールで送っているか知っていますか?
サーバーの監視ツールやcronの通知、業務システムのパスワード再設定メールも同じです。送信先のメールサーバーがMicrosoft 365のExchange Onlineなら、今年の年末に一度設定を見ておいたほうがいいかもしれません。
Exchange Onlineでは、SMTP AUTHの基本認証(ユーザー名とパスワードだけでのログイン)が、2026年12月末から既定で無効になる予定です。
この記事では、何が変わるのか、どんな機器やサーバーが影響を受けやすいのか、そして移行先をどう選べばいいのかを順番に見ていきます。
SMTP AUTHの基本認証とは?¶
まずは言葉の整理からです。
SMTPは、メールを送るときに使うプロトコルです。SMTPそのものの仕組みは、SMTPを扱った基本情報技術者試験の過去問解説でも紹介しています。
SMTP AUTHは、メールを送る前に「この送信者は誰か」をサーバーに証明するための仕組みです。Exchange Onlineでは、Microsoftのドキュメントでクライアント送信(Client Submission)と呼ばれています。
SMTP AUTH(クライアント送信)は、アプリや機器が
smtp.office365.comのポート587にTLSで接続し、メールボックスのアカウントでサインインしてからメールを送る方式です。
このときの「サインインのしかた」が2種類あります。
| 認証のしかた | 中身 | 今回の変更 |
|---|---|---|
| 基本認証(Basic認証) | ユーザー名とパスワードをそのまま送る | 2026年12月末から既定で無効 |
| OAuth(先進認証) | Microsoft Entra IDからトークンをもらって送る | 引き続き使える |
基本認証は設定が簡単なので、古い機器や手作りのスクリプトほどこちらを使っています。
ただ、パスワードが漏れればそのまま悪用されますし、多要素認証もかけられません。Microsoftは数年かけて、Exchange Onlineから基本認証を外してきました。今回のSMTP AUTHは、その最後に残っていた部分です。
ちなみに、Apacheの Basic認証の設定手順 で出てくる「Basic認証」も、ユーザー名とパスワードをそのまま送るという点では同じ考え方です。
いつ、何が変わるの?¶
この件は、予定が何度か変わっています。古い情報のまま判断しないように、流れを整理しておきます。
予定の変わり方¶
Microsoftが最初にSMTP AUTHの基本認証の廃止を発表したのは、2024年4月です。
当初は2025年9月の廃止を目指していましたが、その後、2026年3月1日から拒否を始めて、4月30日に100%拒否するという予定に変わりました。
ところが、2026年1月27日の更新で、この予定はもう一度見直されました。現在の予定は次のとおりです。
| 時期 | 内容 |
|---|---|
| 2026年12月まで | これまでどおり。基本認証の動きは変わらない |
| 2026年12月末 | 既存のテナントでも、SMTP AUTHの基本認証が既定で無効になる。管理者が必要なら再び有効にできる |
| 2026年12月末以降に作られたテナント | 最初から基本認証は使えない。OAuthが前提 |
| 2027年後半 | 完全に廃止する日付が発表される予定 |
ネット上には、いまでも「2026年4月30日に終了」と書いた記事が残っています。これは1月の更新より前の情報なので、計画を立てるときは使わないようにしましょう。
「既定で無効」は、何もしないと止まるということ¶
2026年12月末の変更は「完全に廃止」ではありません。管理者が設定を戻せば、しばらくは基本認証を使い続けられます。
それでも、何も準備していない現場では、年末年始の休み明けに次のようなことが起きる可能性があります。
- 複合機でスキャンしたPDFがメールで届かない
- 監視ツールのアラートメールが来ない
- 業務システムの通知メールが送られていない
とくに監視の通知が止まるのは怖いところです。障害が起きていても気づけず、「メールが来ないから平和だ」と思い込んでしまいます。
基本認証で送ろうとしたクライアントには、次のようなエラーが返るとされています。
550 5.7.30 Basic authentication is not supported for Client Submission.
ログでこのエラーを見かけたら、今回の変更の影響を疑ってください。
どこで基本認証を使っているかを洗い出す¶
まずやるべきことは、社内でSMTP AUTHの基本認証を使っている機器やサーバーを見つけることです。
思いつくものを並べると、だいたい次のあたりになります。
| 送信元 | よくある使い方 | 確認する場所 |
|---|---|---|
| 複合機・スキャナー | スキャンtoメール | 機器の管理画面のSMTP設定 |
| Linuxサーバー | Postfixのリレー、cronの通知 | /etc/postfix/main.cf など |
| 監視ツール | Zabbixなどのアラート通知 | ツールのメディア(送信方法)設定 |
| 業務アプリ | 自社開発のシステムからの通知 | アプリの設定ファイルや環境変数 |
| スクリプト | PowerShellやPythonでのメール送信 | ジョブの中身 |
共通する目印は、送信先が smtp.office365.com のポート587で、ユーザー名とパスワードを設定していることです。
Linuxサーバーで確認する¶
Linuxサーバーからのメール送信では、Postfixを使って外のSMTPサーバーへ中継(リレー)していることがよくあります。Postfixの基本的な構築は、postfixの構築方法で解説しています。
Exchange Onlineへリレーしているかは、次のように確認できます。
# 中継先のSMTPサーバーを確認する
postconf relayhost
# SASL(ユーザー名とパスワード)で認証しているか
postconf smtp_sasl_auth_enable smtp_sasl_password_maps
# 設定ファイルに smtp.office365.com が書かれていないか探す
sudo grep -rn "smtp.office365.com" /etc/postfix/ /etc/ 2>/dev/null
relayhost が [smtp.office365.com]:587 で、smtp_sasl_auth_enable = yes になっていれば、基本認証で送っている可能性が高いです。
すでにエラーが出ていないかは、メールのログで確認します。
# systemd環境でPostfixのログを見る
sudo journalctl -u postfix --since "7 days ago" | grep "5.7.30"
# ログをファイルに出しているディストリビューションの場合
sudo grep "5.7.30" /var/log/maillog /var/log/mail.log 2>/dev/null
cronのジョブ結果をメールで受け取っている場合も、この経路を通っていることがあります。cronの通知の出し方は cronとsystemd timerの使い分け の記事も参考にしてください。
Exchange Online側で確認する¶
Microsoft 365の管理者であれば、Exchange Online PowerShellで設定を確認できます。
SMTP AUTHの設定は、組織全体の設定と、メールボックスごとの設定の2段階になっています。メールボックスごとの設定のほうが優先されます。
# 組織全体の設定(True なら組織としては無効)
Get-TransportConfig | Format-List SmtpClientAuthenticationDisabled
# メールボックスごとの設定(空なら組織の設定に従う)
Get-CASMailbox -Identity scanner@example.com | Format-List SmtpClientAuthenticationDisabled
メールボックスの値は $true(無効)、$false(有効)、$null(組織の設定に従う)の3つです。組織全体では無効にしていても、複合機用のアカウントだけ $false にして使っている、という運用はよくあります。
洗い出しのときは、組織全体の設定だけを見て安心しないことが大事です。メールボックスごとに有効にしているアカウントが、まさに今回の影響を受ける候補になります。
移行先はどう選べばいいの?¶
基本認証をやめるときの選択肢は、大きく分けて4つあります。どれが向いているかは、送信先が社内だけか、社外にも送るか、そして機器がOAuthに対応しているかで変わります。
| 方法 | 社外へ送れるか | 認証 | 向いているケース |
|---|---|---|---|
| SMTP AUTH+OAuth | 送れる | OAuthトークン | OAuthに対応した新しい機器やアプリ |
| 直接送信(Direct Send) | 送れない(自社ドメイン宛てのみ) | なし | 社内宛てだけでよい複合機 |
| SMTPリレー(コネクタ) | 送れる | 固定のグローバルIPか証明書 | 固定IPの拠点から、まとめて送りたい場合 |
| High Volume Email(HVE) | 社内宛てが中心 | 基本認証も当面可 | 社内向けの大量送信 |
それぞれの特徴を見ていきます。
SMTP AUTHのまま、OAuthに切り替える¶
いちばん素直なのは、機器やアプリの設定をOAuthに切り替える方法です。
ただし、機器側がOAuthに対応していないと使えません。複合機なら、メーカーのファームウェア更新でOAuthに対応しているかを確認してください。古い機種だと対応予定がないこともあります。
自社開発のアプリなら、Microsoft Entra IDにアプリを登録して、トークンを取得する処理を追加することになります。
直接送信(Direct Send)¶
直接送信は、認証せずに、自社ドメインのMXレコードが指すExchange Onlineの受信口へ、ポート25で直接メールを渡す方法です。MXレコードについては、DNSの基本の記事でも触れています。
認証がいらないので、OAuthに対応していない古い複合機でも使えます。そのかわり、届けられるのは自社のドメイン宛てだけです。社外の取引先にスキャンを送るような使い方には向きません。
SMTPリレー(コネクタ)¶
SMTPリレーは、Exchange Onlineに「この固定IPからのメールは中継してよい」という受信コネクタを作って送る方法です。
社外にも送れて、機器ごとにアカウントを持たなくてよいのが利点です。一方で、拠点に固定のグローバルIPが必要で、SPFレコードの設定なども含めて準備がいちばん多くなります。
High Volume Email(HVE)¶
HVEは、社内向けの大量メールを送るためにMicrosoftが用意した仕組みです。2026年3月に一般提供が始まり、基本認証も2028年9月まで使えると案内されています。
ただし、送れるのは基本的に社内の受信者です。社外へ送る用途の置き換えにはなりません。「とりあえずHVEに逃がせば全部解決」とは考えないほうがいいでしょう。
年末までの進め方¶
ここまでの内容を、作業の順番にまとめておきます。
| 時期の目安 | やること |
|---|---|
| 10月〜11月 | 送信元の洗い出し。機器・サーバー・アプリごとに、送信先が社内だけか社外もあるかを書き出す |
| 11月 | 機器ごとに移行先を決める。OAuth対応の有無をメーカーに確認する |
| 11月〜12月中旬 | 検証環境や1台目で切り替えて、実際にメールが届くか確認する |
| 12月中旬まで | 本番の切り替え。どうしても間に合わない機器は一覧にして、再有効化の判断を決めておく |
ポイントは、「間に合わなかったら管理者が戻せる」ことを、最初から予定に組み込まないことです。戻せるのはあくまで一時的な措置で、2027年後半には完全廃止の日付が発表される予定です。
もう1つ大事なのは、切り替えたあとに通知が本当に届くかを確かめることです。監視ツールならテスト通知を送り、cronならわざと失敗するジョブを1回動かしてみます。
# Postfixの経路で、テストメールを1通送ってみる
echo "test from $(hostname)" | mail -s "SMTP test" admin@example.com
# 送信キューに詰まっていないか確認する
mailq
キューにメールが残り続けていたら、どこかで止まっています。ログを見て、エラーコードを確認しましょう。
インフラエンジニアとして押さえておきたいこと¶
今回の話は、Microsoft 365の管理者だけの問題に見えるかもしれません。
でも実際に影響を受けるのは、Linuxサーバーの通知、監視ツール、ネットワーク機器のアラートなど、インフラエンジニアが面倒を見ている仕組みです。「メールは情報システム部門の担当だから」と思っていると、自分のサーバーの通知が止まっていた、ということになりかねません。
また、パスワードだけでの認証をやめる流れは、メールに限った話ではありません。社内ネットワークの中だから安全、という考え方を見直す ゼロトラスト の流れとも重なっています。
メールの送信経路を説明できるようになるには、SMTPやDNSに加えて、Linuxのサービスやログの見方が欠かせません。InfraAcademyの Linuxロードマップ では、コマンドの基本からサービスの構築、ログの確認までを順番に学べます。今回のような変更が来たときに、自分で影響範囲を調べられる力を一緒につけていきましょう。
まとめ¶
最後に、この記事のポイントを振り返ります。
- Exchange OnlineのSMTP AUTHの基本認証は、2026年12月末から既存テナントでも既定で無効になる
- 管理者が再び有効にできるが一時的な措置で、完全廃止の日付は2027年後半に発表される予定
- 影響を受けやすいのは、複合機、Linuxサーバーのリレー、監視ツール、業務アプリ、スクリプト
- 移行先は、OAuth、直接送信、SMTPリレー、HVEの4つから、送信先と機器の対応状況で選ぶ
年末の休みに入る前に、まずは smtp.office365.com に送っている機器とサーバーの一覧を作るところから始めてみてください。一覧ができれば、あとは1台ずつ片づけていくだけです。
参考¶
- Exchange Online to retire Basic auth for Client Submission (SMTP AUTH)(Microsoft Exchange Team Blog)
- MC786329 - Exchange Online to retire Basic Auth for Client Submission (SMTP AUTH)
- Enable or disable authenticated client SMTP submission (SMTP AUTH) in Exchange Online(Microsoft Learn)
- How to set up a multifunction device or application to send email using Microsoft 365 or Office 365(Microsoft)
- High Volume Email: Continued support for Basic Authentication & other important updates(Microsoft Exchange Team Blog)



