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インフラが「あの人しかわからない」問題。属人化を解消する育成とナレッジ継承の設計

| #DX #人材育成 #インフラ運用
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こんにちは、インフラエンジニアのryuです。

いきなりですが、育成担当や情報システムの責任者の方に質問です。もし自社のサーバーやネットワークの面倒を見ている「あの人」が、明日から一ヶ月休むことになったら、業務は回るでしょうか。

「たぶん大丈夫」と即答できる会社は、実はそう多くありません。「あの人がいないと、何がどうなっているのか誰も分からない」——そんな状態に、心当たりはないでしょうか。

これがいわゆる 属人化 です。今日は、インフラ運用が特定の一人にぶら下がってしまう問題を、どう解きほぐしていくか。育成とナレッジ継承の観点から、明日から動ける形でお話しします。

そもそも「属人化」って、何が問題なの?

言葉はよく聞くけれど、何が困るのかを言葉にすると意外と難しいものです。まず、そこをそろえておきましょう。

属人化とは、ある業務のやり方や知識が特定の人の頭の中だけにあって、他の人には見えない・引き継げない状態を指します。手順書もなく、その人に聞かないと何も分からない。これが、インフラの現場では驚くほど起きやすいのです。

一人の名人が全部やってくれるのは、一見すると効率がいいように見えます。ですが、これは会社にとってかなり危うい状態です。

宅配便にたとえてみましょう。ある地域の配達を、地図を持たないベテラン一人が「体で覚えた勘」だけで回しているとします。毎日きちんと届くうちはいい。でも、その人が体調を崩した瞬間、代わりの人はどの家がどこにあるのかすら分かりません。荷物は止まり、誰も動けなくなる。属人化とは、まさにこの状態のことです。

属人化が生む、3つのリスク

もう少し具体的に、何が困るのかを整理します。

一つ目は、事業が止まるリスクです。担当者が休む・辞める・倒れる、そのどれか一つで運用が立ち行かなくなります。障害が起きても、原因を追える人が一人しかいなければ、その人が捕まるまで復旧できません。

二つ目は、品質とセキュリティのリスクです。一人しか中身を分かっていないと、その設定が本当に安全なのか、誰もチェックできません。ミスがあっても気づかれないまま放置される。ブラックボックス化した仕組みは、事故の温床になります。

三つ目は、人が育たないリスクです。「あの人がやるから」で仕事が固定されると、周りはいつまでも経験を積めません。結果、属人化はさらに進み、抜け出せなくなっていきます。

これは、あなたの会社だけの話ではない

属人化は、個々の会社のだらしなさの問題ではありません。国全体の課題として、正面から指摘されています。

経済産業省が2018年に公表した「DXレポート」は、古い基幹システムがブラックボックス化し、担当者の高齢化・退職によって中身が分からなくなっていく問題を「2025年の崖」として警告しました。このまま放置すれば、2025年以降に最大で年間12兆円もの経済損失が生じかねない、という試算まで示されています。

システムの複雑化・ブラックボックス化と、それを支える人材の不足。この二つが重なったとき、企業は身動きが取れなくなる。DXレポートが鳴らしたのは、そういう警鐘でした。

つまり属人化は、日々の運用の困りごとであると同時に、放っておくと経営を揺るがす構造的なリスクなのです。だからこそ、意識して解きほぐしていく価値があります。

なぜインフラは、こんなに属人化しやすいのか

対策の前に、原因を押さえておきましょう。敵の正体が分かれば、打ち手も見えてきます。インフラが属人化しやすいのには、はっきりした理由があります。

一つは、障害対応が緊急だからです。サーバーが落ちれば、悠長に手順書を書いている暇はありません。分かっている人が全速力で直す。そのくり返しの中で、知識はその人の中だけに溜まっていきます。

もう一つは、暗黙知が多いことです。「この機器はたまに不安定になるから、再起動はこの順番で」といったコツは、マニュアルには書きにくい。経験として体に染み込んでいるぶん、言葉にして残されないまま埋もれてしまいます。

そして、ドキュメント化が後回しにされがちなこと。記録を残す作業は、動いているシステムを前にすると「あとでやろう」になりやすい。その「あとで」は、たいてい永遠に来ません。

加えて、担当者本人が「自分にしかできない」状態に、無意識のうちに安心してしまう面もあります。頼られること自体は悪いことではありません。ですが、それが行き過ぎると、知識を抱え込むことが本人の存在価値になってしまい、共有が進まなくなる。これは本人の人柄の問題ではなく、そう仕向けてしまう構造の問題です。

こうして、悪気なく、むしろ真面目に頑張るほど属人化が進んでいく。ここがこの問題のやっかいなところです。裏を返せば、仕組みで対処しない限り、個人の善意では防げないということでもあります。だからこそ、次に挙げる打ち手は、どれも「個人の頑張り」ではなく「チームの仕組み」として設計していきます。

属人化を解消する、育成とナレッジ継承の設計図

では、どう解きほぐすか。順番が大事なので、3つのステップに分けて整理します。いきなり全部をやろうとせず、順に進めるのがコツです。

ステップ1:「あの人の頭の中」を書き出す

まず取りかかるのは、頭の中にある知識を、外に出して形にすることです。

とはいえ、いきなり完璧なマニュアルを作ろうとすると、必ず挫折します。おすすめは、障害対応の手順を一つずつ、短い「手順書(ランブック)」として残していくやり方です。例えば、こんな一枚から始めます。

# ランブック:Webサーバーが応答しないとき
## 1. まず確認する
- 監視画面でどのサーバーが赤いか確認
- ping で疎通確認: ping <サーバーIP>
## 2. サービスの状態を見る
- systemctl status nginx で稼働状況を確認
- ログを見る: tail -n 50 /var/log/nginx/error.log
## 3. 再起動する(順番を守る)
- systemctl restart nginx
- 直らなければ、上長 or 二次対応者へ連絡
## 4. 連絡先
- 監視ベンダー: 03-xxxx-xxxx

完璧である必要はありません。「その人がいなくても、これを見れば次の一手が分かる」。まずはこの水準を目指します。障害が起きるたびに一枚ずつ増やしていけば、半年後にはかなりの厚みになります。

残すべき知識は、大きく次のように分けて考えると漏れが減ります。

種類 具体例 残し方
構成情報 サーバー一覧・IP・ネットワーク図 一覧表・構成図
手順 構築・変更・障害対応の段取り ランブック
判断の理由 なぜこの設定にしたのか 設計メモ・コメント
連絡先 ベンダー・契約・アカウント 台帳

特に見落とされがちなのが、三つ目の「判断の理由」です。設定そのものは見れば分かっても、なぜそうしたのかは本人しか知らない。ここを一言残しておくだけで、引き継いだ人の理解がまるで変わります。

もう一つ大事なのが、どこに残すかです。せっかく書いても、個人のPCやメールの中に散らばっていては、いざというときに見つかりません。チームの誰もがたどり着ける共有の置き場所を一つ決めて、そこに集約する。凝ったツールでなくても、社内のWikiや共有フォルダで十分です。「困ったらまずここを見る」という場所が決まっているだけで、探す時間が大きく減ります。

ステップ2:複数人が「同じことをできる」状態にする

書き出したものは、使われて初めて意味を持ちます。次のステップは、その知識を実際に他の人へ移すことです。

ここで効くのが、クロストレーニング、つまり一つの役割を複数人ができるようにしておく考え方です。担当を一人に固定せず、二人目・三人目が同じ作業を回せる状態を意図的に作ります。

やり方はシンプルで、日々の運用に「ペアで対応する」「持ち回りで担当する」を少しずつ混ぜていくこと。ベテランが対応するとき、若手を横につけて手順を実況してもらうだけでも、暗黙知はかなり移っていきます。

コツは、いきなり本番の重い作業を任せないことです。まずは見学、次に手順書を見ながら一緒に、その次に本人が主でベテランが後見に回る。この三段階を踏むと、教わる側も安心して手を動かせますし、教える側も「任せて大丈夫か」を確かめながら渡していけます。一足飛びに突き放すと事故につながりますが、段階を踏めば着実に移っていきます。

もう一つ意識したいのが、教えることを評価する文化です。自分の仕事を人に渡すのは、短期的には自分の手間が増えるだけに見えます。ここで「よく引き継いでくれた」ときちんと認める姿勢がないと、誰も知識を手放そうとしません。引き継ぎやドキュメント化を、雑務ではなく評価される仕事として扱うこと。これが遠回りに見えて、いちばん効きます。

大事なのは、これを本人任せにしないことです。「時間があれば教えて」では、忙しい現場では永遠に後回しになります。引き継ぎを個人の善意ではなく、業務そのものとしてスケジュールに組み込む。ここが、成否を分けます。

この考え方は、新人の受け入れ設計とも地続きです。誰かに寄りかからないチームづくりの土台については、インフラ新人研修の設計早期離職を防ぐオンボーディングの記事も、そのまま参考になります。

ステップ3:共通の「土台スキル」をそろえる

引き継ぎがうまくいかない原因の一つに、そもそも受け取る側の基礎が足りない、という問題があります。

ランブックを渡しても、systemctl が何なのか、ネットワーク図の矢印が何を意味するのかが分からなければ、知識は移りません。だからこそ、チーム全員がある程度共通の土台を持っていることが、ナレッジ継承の前提になります。

ここで役立つのが、経済産業省とIPAが策定した「デジタルスキル標準(DSS)」です。DXに関わる人材の役割と必要スキルが体系的に整理されていて、2026年4月には最新のver.2.0が公開されました。自社が「どのレベルまで全員に身につけてほしいか」を決める、公的な物差しとして使えます。

土台をそろえる学習の入り口としては、分野別のロードマップがある教材が向いています。InfraAcademyでも、まず押さえたいLinuxのロードマップインフラエンジニアの全体ロードマップネットワークの始め方といった形で、学ぶ順番に沿って進められるようにしています。基礎のコマンド操作ならLinuxコマンドの初心者向け解説あたりが取っかかりになります。

全員の土台がそろうと、ランブックの言葉が通じるようになり、引き継ぎのスピードが一気に上がります。遠回りに見えて、実はここが近道です。

属人化しにくいチームをつくる、日々の習慣

設計図を描いても、日々の習慣に落ちなければ元に戻ります。最後に、属人化を「起きにくく」する小さな工夫を挙げておきます。

一つは、変更を一人で完結させないことです。設定を変えるときは、必ずもう一人がレビューする。二人の目が入るだけで、知識は自然と共有され、ミスも減ります。

もう一つは、休みを「取れる」前提で回すこと。担当者が有給を取っても業務が止まらないなら、それは属人化が解けている何よりの証拠です。逆に「あの人は休めない」が続くなら、危険信号だと考えましょう。試しに、キーパーソンにあえて一日休んでもらい、残りのメンバーだけで回してみる。そこで浮かび上がった「詰まった箇所」こそ、次に手を打つべきポイントです。訓練だと割り切って、意図的に穴を見つけにいく発想も有効です。

そして、記録を残す時間を業務として認めること。ドキュメント作成を「手が空いたらやる雑務」ではなく、正式な仕事として時間を確保する。この後ろ盾があるかどうかで、ナレッジが残るかどうかが決まります。

小さな習慣として、障害対応が一段落したあとに数分だけ「今回どこでつまずいたか」を書き残す、というルールも効果的です。記憶が新しいうちに一言残しておくだけで、次に同じことが起きたときの立ち上がりがまるで変わります。完璧な報告書は要りません。あとで読んだ人が助かる、その一行があれば十分です。こうした小さな積み重ねが、気づいたときには立派なナレッジベースになっています。

こうした仕組みづくりを、自社だけで走らせるのが難しいときは、外の力を借りるのも一つの手です。InfraAcademyでは、チーム全体の土台スキルを底上げし、進捗の見える化まで含めた法人向けプランをご用意しています。属人化の解消は、一人の負担を減らすだけでなく、組織全体を強くする投資でもあります。

まとめ

インフラの属人化、つまり「あの人しかわからない」問題を、今日は解きほぐしてきました。

要点を振り返ります。属人化は、事業停止・品質低下・人が育たないという三つのリスクを抱え込み、DXレポートが「2025年の崖」として警告したほどの構造的な課題でもあります。インフラは障害対応の緊急性や暗黙知の多さから、放っておくと必ず属人化に傾きます。

だからこそ、頭の中を書き出し、複数人ができる状態を作り、共通の土台をそろえる。この三段構えで、意識的に解きほぐしていく必要があります。そして日々のレビューや持ち回りといった習慣で、元に戻らないようにする。

一人の名人に頼るチームは、強そうに見えて、実はもろい。知識が人から人へ流れるチームこそが、長い目で見ればいちばん頼りになります。まずは「あの人が一ヶ月休んでも回るか」を、チームで一度問い直すところから始めてみてはいかがでしょうか。

参考記事

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この記事を書いた人

ryu

InfraAcademy運営 / エンジニア

エンジニア歴10年。Linux、ネットワーク、クラウドを中心に、実務で役立つインフラ技術を初心者にもわかりやすく解説しています。

X: @ryu63614894

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