こんにちは、インフラエンジニアのryuです。
先日、あるSIerの育成担当の方から、こんな相談をいただきました。
「新人インフラエンジニア研修はかなり手を入れて、1年目はうまく回るようになったんです。ただ、2年目の終わりくらいから、誰も見ていない状態になっていて」
その方の会社では、入社から2年目までの育成計画がきちんと文書になっていました。メンターも付き、月次で進捗を確認する場もあります。
けれど3年目の欄は、白紙でした。
似たようなことが起きている会社は、たぶん少なくないのではないでしょうか。新人の育成に力を入れれば入れるほど、その仕組みが終わった直後に段差ができます。
今日は、研修が終わったあとの2〜3年目の若手インフラエンジニアが伸び悩む時期に、会社として何を手当てするか、という話をします。
育成が手厚いほど、3年目に段差ができる¶
新人育成の記事や研修サービスは、たいてい1年目を対象にしています。
配属前の集合研修、配属後のOJT、半年後のフォローアップ。ここまでは、どこの会社でもだいたい設計されていますよね。
問題は、その仕組みが「いつ終わるか」を決めているのに、「そのあと何があるか」を決めていないことです。
引っ越しにたとえると分かりやすいかもしれません。荷物を運び入れるところまでは業者が丁寧にやってくれるのに、家具をどこに置くかは自分で考えてください、と言われて部屋に取り残されるようなものです。
「育成期間は2年目まで」という線引きが生む空白¶
リクルートマネジメントソリューションズが2025年に公表した若手・中堅社員の組織適応に関する調査では、近年は若手の育成が手厚く行われる傾向があり、2年目が終わるまでを育成期間と定めてフォローを行う企業も多い、と指摘されています。
そして同じ調査で、3年目は任せられる仕事の領域が急に広がる一方で、上司の関わりは1年目・2年目より弱まる時期だと報告されています。上司が意図して関わりを弱めている可能性がある、という分析も添えられていました。
つまり3年目の若手は、任される量がいちばん増える時期に、支えがいちばん薄くなるという組み合わせに置かれています。
本人から見ると、これは「信頼された」とも「放り出された」とも受け取れます。どちらに転ぶかは、その時点の手応え次第です。
数字で見ると、3年目は静かに危ない¶
厚生労働省が2025年10月に公表した新規学卒就職者の離職状況によると、令和4年3月に卒業した大学卒の就職後3年以内の離職率は33.8%でした。前年より1.1ポイント下がったとはいえ、3人に1人は3年以内に辞めている計算になります。
先ほどの調査でも、離職意向が高まる時期として3年目と5〜7年目が挙げられていました。
ここで気をつけたいのは、3年目の離職が「不満の爆発」として現れないことです。1年目の離職は、配属のミスマッチや人間関係のように、周囲から見えやすい理由で起きます。
3年目はそうではありません。仕事は回っているし、本人も淡々とやっている。その状態のまま、ある日転職先が決まった、と報告が来ます。
育成の失敗は、たいてい騒がしく現れない。静かに、成長曲線が寝ていく形で現れる。
3年目のインフラエンジニアに、実際には何が起きているのか¶
では、この時期の若手はどんな状態にあるのでしょうか。
インフラの現場に限って言うと、3年目は「手は動くが、設計はしたことがない」という段階にいることが多いです。
構築手順書にしたがってサーバーを立てられる。監視のアラートを受けて一次対応もできる。けれど、なぜその構成なのか、なぜそのしきい値なのかは説明できない。
仕事の量だけ見れば一人前です。判断の量で見ると、まだ新人と大きく変わっていません。
段階ごとに整理すると、こうなります。
| 年次 | 任される範囲 | 周囲の関わり | 起きやすいこと |
|---|---|---|---|
| 1年目 | 手順が決まった作業 | 手厚い。毎日見てもらえる | 分からないことを聞きやすい |
| 2年目 | 定常運用と小さな変更 | メンターや育成計画が残っている | 順調に見え、油断が生まれる |
| 3年目 | 案件の担当、顧客との調整 | 急に薄くなる | 判断を一人で抱え、我流が固まる |
| 4年目以降 | 設計や後輩の指導 | 成果でしか評価されない | 土台の穴が表面化する |
この表で注目してほしいのは、3年目の行だけ「任される範囲」と「周囲の関わり」が逆方向に動いていることです。
ほかの年次は、範囲が広がるときに支えも一緒に動きます。3年目だけが、増える側と減る側が同時に来ます。
「できるはず」と「実はやったことがない」のずれ¶
3年目に多いのが、周囲の期待と実績のずれです。
上司は「2年やったのだから、ひととおり触ったはずだ」と考えます。本人も、聞かれれば「まあ、できます」と答えます。
ところが具体的に確かめると、本番のファイアウォールを自分で変更した経験はない、障害の一次切り分けは常に先輩が横にいた、という状態だったりします。
これは本人が悪いのではありません。任せる側が、経験の棚卸しをしないまま次の段階へ進めてしまっただけです。
独り立ちまでの道のりをどう縮めるかについては、インフラエンジニアの新人が独り立ちするまでを縮めるには?でも書きました。3年目の手当ては、その続きにあたる話だと考えてください。
我流が固まると、あとから直せなくなる¶
もうひとつの変化は、やり方が固定されることです。
1年目は、先輩の手順をそのまま真似ます。2年目は、真似たやり方に少し自分の工夫を足します。
3年目になると、その工夫が本人の中で「正解」になります。周囲が見ていないので、誰も直してくれません。
sudo を使わずrootで作業する癖、変更の記録を残さない癖、検証環境を飛ばして本番で試す癖。こうした習慣は、3年目までに固まるとかなり根深くなります。
運用中心の現場では、年次が上がっても経験の幅が増えない¶
インフラの仕事には、ほかの職種と少し違う事情もあります。
運用保守が中心の現場では、3年目になっても日々やることが1年目と大きく変わりません。監視を見て、問い合わせに答えて、定期のパッチを当てる。
そこに構築案件がたまたま来なければ、経験の幅は年次と関係なく止まります。本人の努力の問題ではなく、担当している仕事の性質の問題です。
近年はクラウドの利用が広がって、手を動かして機器を組む機会そのものが減った現場もありますよね。物理のラックを触ったことがないまま3年目を迎える、というのは珍しくなくなりました。
ですから3年目の状態を見るときは、勤続年数ではなく、経験した仕事の種類で数えたほうが実態に近くなります。「3年目だからこれくらいはできるはず」という前提は、いったん外して考えてみてください。
切れ目を埋めるために、会社ができる3つの手当て¶
ここからは具体的な話をします。大がかりな制度は要りません。3年目の設計を、1年目と同じ粒度で書くだけです。
任せる仕事は、難易度ではなく「範囲」で広げる¶
3年目に新しい仕事を任せるとき、つい「もっと難しいこと」を渡そうとします。
でも、伸び悩みの正体は難易度ではないことが多いです。足りないのは、仕事の前後を見る経験のほうです。
たとえばサーバーの構築を任せるなら、手順の実行だけでなく、要件の確認、構成の検討、変更申請、完了報告まで一続きで持たせます。作業の難しさは変わりませんが、判断する回数が何倍にもなります。
任せ方を1枚に書き出すと、抜けが見つかります。
【3年目に任せる範囲の棚卸しシート】
案件名:
要件を聞く : 同席のみ / 本人が聞く / 本人が決める
構成を決める : 先輩が決定 / 案を出す / 本人が決定
作業する : 補助あり / 単独 / 後輩に教える
変更申請を通す : 先輩名義 / 本人名義
障害時の一次判断 : 先輩へ即エスカレ / 本人が切り分け
顧客・他部署へ報告 : 先輩が実施 / 本人が実施
※すべて右端になった項目は卒業。左端が残る項目が次の課題
こういう表を1つ作っておくと、「もう任せたつもりだったが、要件を聞く場に同席させたことがなかった」といった抜けが具体的に見えてきます。
関わりは減らすのではなく、形を変える¶
3年目の若手に、1年目と同じ頻度で声をかける必要はありません。それは本人にとっても窮屈です。
変えるべきなのは頻度ではなく、問いの種類です。
1年目は「分からないことある?」で機能します。3年目には効きません。分からないことが何かを、本人が言語化できなくなっているからです。
代わりに、判断を聞く問いに切り替えます。
| 1年目に効く問い | 3年目に効く問い |
|---|---|
| 分からないところある? | その構成、ほかの案は検討した? |
| 手順どおり進んでる? | この作業でいちばん怖いのはどこ? |
| 困ってることある? | 半年後に誰かが引き継ぐとしたら、何が足りない? |
| 期限に間に合いそう? | 今回、自分でやらずに人に頼んだほうがよかったことは? |
右側の問いは、答えるために本人が一度立ち止まる必要があります。この立ち止まりが、放っておくと起きない振り返りの代わりになります。
もうひとつ、3年目に効く関わり方があります。後輩に教える役を、正式に渡すことです。
人に説明しようとすると、自分が分かっていない箇所がはっきりします。「なんとなくそう書いてあったから」で済ませていた設定が、質問されて初めて穴として見えてきます。
ただし、教える役を渡しっぱなしにするのは避けたいところです。自分の作業に加えて指導まで抱えると、3年目はいちばん先に潰れます。
後輩1人につき週30分、というように時間を先に確保して、その分だけ本人の担当案件を減らす。ここまでやって、ようやく「任せた」と言えるのだと思います。
OJTの担い手をどう仕組みにするかは、インフラエンジニアのOJTをトレーナー制度に変えるでまとめています。3年目の関わりも、担当者の善意ではなく役割として置いたほうが続きます。
土台の穴は、自己申告に頼らず埋める¶
3年目の若手に「苦手な分野は?」と聞いても、正直な答えはあまり返ってきません。評価に響くと思えば当然です。
ですから、本人の申告ではなく、共通の物差しで確認します。
インフラの領域なら、Linuxの権限とプロセス、ネットワークの経路とサブネット、名前解決、ログの読み方あたりが土台になります。ここに穴があると、4年目以降の設計の仕事で必ず詰まります。
確認のしかたは、テストである必要はありません。実際に起きた障害を1件持ち出して、「このとき、どこから調べる?」と口頭で聞くだけでも十分です。
説明の順番を聞けば、その人がどの層を理解していて、どこを飛ばしているかがだいたい分かります。答えが合っているかより、筋道が通っているかを見てください。
資格の取得を目標に置くのも、この年次には合っています。範囲が決まっていて、合否という形で他人と共有できるからです。ただし、資格が目的になって現場の経験と切り離れると意味が薄れるので、業務でやったことと結びつけて振り返る場をセットにしたいところです。
とはいえ、忙しい3年目に体系立てた学び直しの時間を取るのは簡単ではありません。業務の合間に自習させると、結局やらないまま1年が過ぎます。
InfraAcademyでは、Linuxのロードマップやネットワークのロードマップに沿って、実際に手を動かしながら土台を確認できるようにしています。すでに現場で動いている若手が、自分の穴だけを拾い直す使い方にも向いています。
会社として研修の枠を用意したい場合は、法人プランのご案内もご覧ください。1年目向けの育成だけでなく、2〜3年目の埋め直しに使っていただくケースも増えています。
育成の続きを、誰が持つのかを決める¶
最後に、いちばん大事な話をします。
3年目の育成が抜け落ちるのは、担当者がいないからです。
1年目には育成担当がいます。4年目以降は、評価者である上司が見ます。その間の2〜3年目だけ、責任者が空白になっている会社が本当に多いです。
決めるべきことは、そう多くありません。
| 決めること | 目安 |
|---|---|
| 誰が見るか | 直属の上司とは別に、1人指名する |
| どれくらいの頻度で見るか | 月1回30分で十分。回数より継続 |
| 何を見るか | 任せた範囲の棚卸しシート1枚 |
| いつ終わるか | 設計を1件やり切ったら卒業と決める |
ここまで決めておけば、忙しさに押し流されにくくなります。
チーム全体で学びを続ける仕組みについては、インフラチームに学び続ける文化を根づかせる勉強会の設計も参考になるはずです。個人への関わりと、場としての勉強会は、役割が違うので両方あるとよいです。
また、若手が静かに辞めていく流れを止めたいときは、新人インフラエンジニアの早期離職を防ぐオンボーディング設計の考え方が、そのまま3年目にも応用できます。
まとめ¶
今日の話を振り返ります。
新人育成を手厚くするほど、その仕組みが終わる2年目の終わりに段差ができます。3年目は任される範囲がいちばん広がる時期で、同時に周囲の関わりがいちばん薄くなる時期でもあります。
打ち手は3つでした。任せる仕事を難易度ではなく範囲で広げること。関わりの頻度ではなく問いの種類を変えること。土台の穴を自己申告に頼らず共通の物差しで埋めること。
そして、この時期を見る担当を1人決めておくこと。ここが空白のままだと、どんなに良い打ち手も実行されません。
3年目の若手インフラエンジニアは、会社にとっていちばん投資効率のよい層だと私は思っています。基礎はあり、現場も知っていて、これから10年以上働く可能性がある人たちです。
育成の仕組みは、終わりを決めるよりも、次に渡す先を決めるほうが効くのではないでしょうか。白紙の3年目の欄に、まずは1行だけでも書いてみてください。



